昨年2023年5月に刊行された英国の経済人類学者ジェイソン・ヒッケルによる著作『資本主義の次に来る世界』は、世界の知識人が大絶賛だそうで、日本でも今年8月に8刷重版された。

前回のブログでは、生産し続け、消費し続け成長させつづける右肩上がりの社会システムに薄々、飽和状態で必要ないのでは?と限界を感じていること、そもそも資本主義って、満足させないようなしくみになっている、という事実。これってどうなの?っということを書いた。

楽天ブックス: 資本主義の次に来る世界 – ジェイソン・ヒッケル – 9784492315491 : 本 (rakuten.co.jp)

資本主義に限界を感じている=もう物質的には満足している。その割に幸福度が上がっているわけではないし、資源的にもこのまま同じように続けていくわけにはいかないよね、ということをほとんどの国と人々は認識はしているんだけど、じゃ、どういう世界にシフトしていきましょうか?という問いがこの本に書かれている。

原題は『LESS IS MORE ~How Degrowth will Save the World~”』

少ない方が豊かである、ということ。

もう高所得の先進国は、十分すぎるほどに成長した。それは、途上国やそれらの資源を支配し搾取してきた歴史が物語っているし、その一方でこれほどまでに豊かになったことで、逆に有難みを感じられず、さらに新しい問題が次々と誕生。自然災害はもとより、あらゆる依存症、鬱などの精神的病、コミュニケーションストレス、癌や発達障害(生態系に悪影響を及ぼす農薬などの被害も明らかである)など現代病とくくられるような実態である。これらは、起こってしまってからは治すのに大変時間がかかるし、社会環境を元に戻すことはもしかしたら不可能だからそうなれば解決はできないのかもしれない。せいぜいできることは改善だろう。

そして、これらの問題に目を背け、これ以上資本主義による経済成長を良しとして、この状況を続けたら、さらに自然災害は増え、私たちは自滅してしまうだろう。幸せに生きたいというのは、世界中皆が願っていることなのに。

ただ、何が過剰なのか、自覚がない場合もあるので、具体的に例を挙げると、

P114 

”平均的なアメリカ人は、毎年インド人30人が消費するのと同等の肉を消費している”

牛をワルモノにするのは好きではないが、こうデータが示すことから言えるのは、どうやらアメリカ人は肉を食べすぎ、消費しすぎだろう。

次に、生態系に及ぼす害が大きいプラスチック。

”中東とアフリカでは、平均的な人は1年に16㎏のプラスチックを消費する。これもかなり多いが、西ヨーロッパではその9倍だ。ひとり当たり年間136㎏のプラスチックを消費しているのだ。”

2015年の世界のプラスチック材料の一人当たりの消費量:地域別

データが2015年と古いが、ちなみに日本は悪しき2位。プラスチックの過剰製造、消費は明らかである。 

P124 アフリカ・スーダンのG77(開発途上国77か国からなるグループ)の交渉責任者であるルムンバ・ディピアン「欧米とは500年余り交流してきたが、不幸なことに今なお、わたしたちは『消耗品』と見なされている」「消耗品にして安い自然」とも言える。

ここの一説は、突き刺さるよう。

”気候崩壊によるトラウマは植民地化によるトラウマの再現だ”

こういう実態を知ることがまず、私たちなんでもない庶民にできること。

ヒッケル氏が良いことを書いている。

P290

”結局のところ、わたしたちが「経済」と呼ぶものは人間どうしの、そしてほかの生物界との、物質的な関係である。その関係をどのようにしたいか、と自問しなければならない。支配と搾取の関係にしたいだろうか。それとも、互恵と思いやりに満ちたものにしたいだろうか?”

互恵と思いやり!これが大事だよな、と。

モノ・お金・仕事を盛りだくさんで生きるよりも、本当に豊かなのはゆったりと自然とともに共存して(資源を搾取せず)、他者とのかかわりを大切に生きていくこと。

まずは、競争精神旺盛な人間には、いわゆる優秀と呼ばれるリーダーが多いので、彼らのベースにある価値観=”資本主義”は完全になくすことは難しいけれど、互恵と思いやりがなければ、私たちは自滅するよ、と言われれば、そうだよな、今やろうとしていることは必要?互恵と思いやりはある?チェック項目に入れて、チェックが入らないなら、やらない決断をしていく必要がある。

何もやらない、というのも大事なのかもしれない。なにもせず、時間と空間に身をゆだねると大事なことを見過ごさないで人間らしく生きていけるから。

資本主義の次に来る世界は、実現するのか?というよりも、そういう生き方をこれからの人々は望んでいることは間違いない。だから実現させたい、というしか言いようはないだろう。

この本を読む時間がない方のために、わたしの私見が参考になれば嬉しいです。